銅版画で綴る近代建築の魅力 その10


 今回の版画は2枚続きです。左が世田谷区役所(現第1庁舎)、右が区民会館で、ともに前川國男(1905~86)の設計になり、それぞれ1961年と1959年に竣工しました。前川は若くして20世紀の巨匠ル・コルビュジエ(1887~1965)に師事し、我が国の近代建築に大きな足跡を残しました。

 双方の建物とも鉄筋コンクリート造の打放しです。柱間いっぱいに窓を設けた区役所に対して、区民会館の主要部は無窓の折板(セツバン)構造で建てられています。文字通り、折り曲げた板状の構造体により建物の剛性を確保します。ここは1200席を擁するコンサートホールです。

 画面中央に、1階を吹放ちにした棟があります。これをピロティと呼び、ル・コルビュジエが提唱し、彼自身多くの建築物に用いました。前川は、このピロティを、区役所と区民会館に至るそれぞれの導入部とすることで両者を機能的、視覚的に繋げるとともに、ここを通り抜けて自由に広場に出入りできるようにしています。

 ピロティならびに区民会館内では催し物が行われ、広場では、ベンチで憩う人、立ち話をしている人など、常に賑わいを見せています。得てして役所に付随する空地は、その利便性から駐車場になることが多いのですが、ここは竣工以来駐車場化することなく、人々が行き交う広場としての本来の役割を果たし続けています。

 現在、世田谷区本庁舎等の建て替え計画が策定され、折板構造のコンサートホールは保存されますが、2025年度に新庁舎に生まれ変わる予定です。

(教授 堀内正昭)

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