建築と映画

こんにちは。建築インテリアデザインコースの戸田穣です。昨年度から専任講師として本学に着任しました。昨年度はオンラインで学生の皆さんともほとんど会う機会もなく、人気のないキャンパスで不思議な時間を過ごしていました。今年度から、あらためてどうぞよろしくおねがいします。

さて、とはいっても、今年度もまた外出もままならない状況になってしまいました。

建物は町の中に建っていますから、町に出られなくては新しい建物との出会いもなかなかありません。けれども「空間」は3次元だけに存在するわけではありません。絵画の中にも、写真の中にも、映画の中にも空間は存在します。ということで、今日は映画にまつわる本を紹介したいと思います。

手前味噌になりますが、かつすでに10年前のことになりますが『映画空間400選』(LIXIL出版, 2011)という本に参加しました。この本は、映画系編集者と建築系編集者が中心になって、映画・建築人脈を集めて編まれた本で、1ページに3本ずつ短い映画紹介記事が集められたものです。それとは別に、ちょっと長めのコラムも掲載されています。わたしも何本かの紹介と、映画の中の電話と空間の関係についてのコラムを寄稿しました。この本の寄稿者の中から、とくに映画と縁の深い3人の本を紹介したいと思います。

長島明夫・結城秀勇編『映画空間400選』

https://livingculture.lixil.com/publish/400/

最初に紹介したいのは中山英之さんです。建物の設計者は建物が完成するまでの時間は過ごしますが、建物が完成したあとの時間を、その建物の中で過ごすことはほとんどありません。『建築のそれからにまつわる5本の映画』(TOTO出版、2019)は、TOTOギャラリー間での展覧会「中山英之展, and then」を機にまとめられたものです。この展覧会では、自分の設計した建物を舞台に制作された映像作品が展示されていました。その映像は、もはや建築家の手を離れた建物が過ごした、時間と空間が写されています。建物にとっては完成したときではなく「その後」の時間こそが大切です。とてもオリジナルな一冊です。またこのとき中山さんは、『寝ても覚めても』『ハッピーアワー』などで現在もっとも注目される映画監督濱口竜介さんと対談しており、その内容はその他6本のトークイベントとともにウェブサイトに掲載されています。こちらも、ぜひご覧下さい。

中山英之『建築のそれからにまつわる5本の映画 , and then: 5 films of 5 architectures』

https://jp.toto.com/publishing/detail/A0381.htm

東京藝術大学中山研究室 A night in CINE-MA

https://note.com/nkymlab/m/mb6c89bc7086a

この夏公開予定の濱口竜介監督の新作『ドライブ・マイ・カー』(原作村上春樹)

https://dmc.bitters.co.jp/

次に紹介するのは建築家の鈴木了二さんです。鈴木了二さんは、これまでご自身のプロジェクトを「物質試行」というシリーズとして発表してきています。そのなかには建物だけでなく、アーティストや写真家との協働からアートオリエンテッドなプロジェクトもあります。わたしは鈴木了二のファンで、いまは絶版となってしまっていますが『非建築的考察』(筑摩書房、1988)を、建築の勉強をはじめた頃に読んですっかりやられてしまいました。さて鈴木さんは、タイトルもずばり『建築映画 マテリアル・サスペンス』(LIXIL出版、2013)という本を上梓しています。鈴木さんが偏愛する7人の映画作家たちを論じながら、あたかも建築が映画の中で登場人物としてふるまうかのような映画を論じていきます。その視点はオーソドックスなものではないかもしれませんが、映画の世界とともに、鈴木了二の世界の扉も開けてもらいたいものです。

鈴木了二『建築映画 マテリアル・サスペンス』

https://livingculture.lixil.com/publish/post-168/

さて最後は渡辺武信さんです。映画好きの人のことをシネフィル(cinephile)といいますが、建築界きってのシネフィルといえば、建築家の渡辺武信さんをおいて他にありません。渡辺さんは、中公新書に『住まい方の思想』をはじめ一般向けの4冊を出版されていますが、まず第一に高名な詩人であり、そして映画評論家としても著名です。『日活アクションの華麗な世界 1954-1971』(未来社、2004)は、映画雑誌『キネマ旬報』に連載していたコラムをまとめたもので、日活という映画会社の製作していた映画を網羅した記念碑的な書物です。渡辺さんが偉大なのは、建築と映画などというようなことは関係なく、ひとりの映画好きとして純粋に映画をみているということです。シネフィルの鑑です。その華麗な世界に触れて下さい。

渡辺武信『日活アクションの華麗な世界』

http://www.miraisha.co.jp/np/isbn/9784624710873

映画だけでなく、小説やマンガ、アニメの面白さというのは、たんに物語を消費することだけにあるのではありません。映画には映画の、文学には文学の、マンガにはマンガの表現方法があり、同じ物語でも監督、作家によってその表現は大きくかわります。とくに映画は空間のなかで何かが動くことで成立する芸術です。まさにMOVIE、Motion Pictureです。物語に共感したり感情移入したり泣いたりするだけでなく、その映画的表現にこそ感動するということがあります。そんな瞬間をぜひ体験してもらいたいと思います。

(専任講師 戸田穣)

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