銅版画で綴る近代建築の魅力 その8

2019,05.24 建築/インテリア教員紹介

鎌田邸(昭和7年築)は、東急世田谷線の山下駅、小田急小田原線の豪徳寺駅と梅ヶ丘駅から徒歩5~7分の住宅街に位置します。同邸の門と塀越しに、主屋の瓦屋根が保存樹を有する豊かな緑の中に垣間見えます。敷地東側の玄関部分は真壁造りであるのに対して、その北側(右手)の洋館部分は淡黄色のモルタル仕上げで、庇と軒回りを緑色の洋瓦葺きとします。この洋館の屋根は緩勾配のため、地上からは陸屋根(ろくやね)のように見え、和風と洋風の対比が意識的になされています。
この洋館は応接間で、玄関奥の南側に居室、居室の北側に中廊下を挟んで台所と浴室を設け、敷地西側に離れと呼ぶ居室を配しています。間取りの上では、中廊下式と和洋折衷式の流れを汲むものです。ただし、これらの諸室は、互いに斜めにずらして配置されています。このような間取りを、雁が群れで飛んでいる隊列を想起させることから、雁行(がんこう)形と呼びます。そのため、接客用の洋間、家族の集う茶の間、そして奥の私室の領域に明瞭に分かれます。さらに、部屋を横並びにするよりも開口部が多くとれ、通風・採光に有利で、庭への多様な眺めを提供するなどの利点があります。
雁行形の建物は愛用され、古くは江戸時代の二条城二の丸御殿、桂離宮をはじめ、近代以降も連綿と受け継がれます。例えば、世田谷区の指定文化財である旧小坂順造邸(昭和13年築、「瀬田四丁目旧小坂緑地」として公開)の陽光で満たされた居室に、その好例を見ることができます(右の版画)。
(教授 堀内正昭)

〒154-8533 東京都世田谷区太子堂1-7-57

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