銅版画で綴る近代建築の魅力 その9

2019,10.10 建築/インテリア教員紹介

東急田園都市線の駒沢大学駅で下車して南に歩を進めると、そこには、駒沢オリンピック公園が広がっています。その南側は深沢で、当地の旧家であった三田家の屋敷跡にこの長屋門が残っています。長屋門とは、門の両側に部屋を設け、そこに大きな一つ屋根を架けたもので、江戸時代の武家屋敷の表門によく見られるほか、名主(庄屋)の家の門として造られました。

三田家長屋門の建築年は、明治40(1907)年頃と伝えられます。桟瓦葺きの寄棟造りで、間口方向は約6.4間(11.6m)、奥行は約2.5間(4.6m)あります。建物中央の後退した箇所が入り口で、そこに観音開き戸を設けています。両側の壁の下部は押縁下見板で、その上は白漆喰仕上げです。室内は2層で、納屋として使用していたと思われます。

見所は軒裏です。外壁の上部に一定間隔で突出した部材があり、これを腕木と言います。腕木の先には長い桁が渡され、この桁の上に垂木が載ります。こうすることで、軒の出の深い屋根を造ることができるのです。武家屋敷の長屋門と比べれば、豪壮さはありませんが、素朴で力強い味わいがあります。世田谷区において現地にそのまま残る長屋門は少ないため、明治時代の旧家の威風を伝える貴重な遺構です。

なお、この作品では建物の軒裏の2面が見える視点を選んでいますが、写真ではこのアングルでの撮影はできません。建物全体を写そうとすれば、その前に欅の大木が立ちはだかっているからです。

(教授 堀内正昭)

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