ファッションを愉しむためのプレイリスト 03 音楽編

2020,05.22 ファッション

 

こんにちは、今回ご紹介するのは音楽です。音楽というと、「聴く」という行為が中心に位置する文化ですが、近年、YouTubeを筆頭とする動画配信サービスの普及に合わせるかたちで、ミュージック・ビデオという形式がますます重要になってきています。ということで、「観る」という観点から音楽をたのしんでみましょう。

 

5. Taylor Swift – We Are Never Ever Getting Back Together(2012)

皆さんご存じこの曲のミュージック・ビデオは、全編ワンカット(カメラを一度も止めない)で撮影されています。監督はミシェル・ゴンドリー。ユーモアのある映像を撮ることで知られるフランスの映像作家ですね。ちなみに僕は彼の大ファンです!

さて、この曲は別れた恋人について歌ったものですが、3分30秒ほどの映像のなかで、テイラー・スウィフトは衣装を5回チェンジします。彼と一緒に過ごした部屋で着ていたルームウェア、電話で言い争いになったときの赤いドットブラウス、車でドライブしたときの、秋の公園を並んで歩いたときの、一緒に参加したパーティーでの…。あのときの私は、確かこんな服装をしていて、それはあの人と同じ時間を過ごすために選んだ服…。

「TPO」という和製英語がありますが(Time、Place、Occasionの略ですね)、いつ、どこで、誰と、どんな状況を過ごすのかということを意識して、私たちはその日その日の服装を決めている部分があったりします。そういう点で、ファッションとはコミュニケーションであると言うこともできそうです。

 

僕が信頼を寄せているデザイナーに、神田恵介さん(keisuke kanda)という方がいるのですが、ファッションついてとても素敵な定義をしているので、ご紹介したいと思います。

ファッションとは、自分ではない誰かがいて初めて成立するものであり、決して自己完結できないものだと思います。例えば、あなたが洋服屋さんのウィンドウに飾ってあったワンピースに一目惚れしたとします。でもそれは、ワンピースという「モノ」に恋をしたわけではない、ということです。この素材感がすばらしいとか、色の組み合わせが自分の好みとか、襟の形がかわいらしいとか。もちろんそのような感覚もあるでしょう。でもそれは、ファッションの本質的な部分ではないような気がしています。大切なのは、そのお気に入りのワンピースを着てあなたが好きな人の隣を歩きたいと願う心だと思うのです。そして、そのような服にまつわる「想い」にはまだ名前がありません。だから僕は、それを「ファッション」と呼ぶことにします。

『拡張するファッション ドキュメント』(林央子編、DU BOOKS 2014、p.136)

 

皆さんには、記憶に残る服はありますか。そして、その服を着たあなたは、誰とどのような時間を過ごしていましたか。

 

 

6. Ariana Grande – thank u, next(2018)

このミュージック・ビデオは、2000年代初めに大ヒットした4つのガールズ・ムービーのパロディによって構成されています。『ミーン・ガールズ』(2004)、『チアーズ!』(2000)、『サーティン・ラブ・サーティ』(2004)、『キューティ・ブロンド』(2001)の4つですが、アリアナ・グランデは、これらの映画の主人公を次々と演じていきます。

『ミーン・ガールズ』と言えばピンクコーデ。水曜日にはピンクの服を着る、金曜日はデニムを履いてはダメ、といったルールを仲間内でつくって、装いを共有する。アメリカのとあるハイスクールの、「the Plastics」という女の子派閥をめぐるお話です。

メイクやファッションを揃えることで、仲間であることを確認し合うわけですね。こうしたスタイルのことを、「リンクファッション」と呼んだりもしますが、みんなと同じであろうとする同調意識がここにはあります。

他方、『キューティ・ブロンド』は、大学でファッション・マーチャンダイジングを学ぶオシャレが大好きな女の子の話。ブロンドヘアにピンク系のファッションがトレードマーク。あることをきっかけに一念発起して弁護士になるのですが、見た目で判断されて見くびられることばかり。それでも自分らしいスタイルを貫き通し、バービーピンクのスーツを着て裁判に臨む…。

自分に向けられる差別的視線を痛快に跳ね返す主人公の強さにはシビれるものがありますが、ここでは他人と違いたい、自分は自分でありたいという意識が見られます。他人と合わせたい、他人と違いたい。どちらもファッションに内在する心理です。

さて、このミュージック・ビデオから考えたかったことは、私たちは何かのイメージを参考にして外見を整え、そして、まるでコスプレ(costume play)するような感覚で、それらのイメージを着たり脱いだり取り替えながら日々過ごしているということです。

 

 

ピンクとファッションのお話については、また別の機会に改めて。

菊田琢也(専任講師)

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